「せ、セラフが家出ぇ?」
エイダ様の叫びに、わたしはひたすら恐縮して頭を下げるばかりだった。
「ど、ど、ど、どこへ行ったっていうのよ。そ、そうだ、探索隊をだすのよ。うちの商会も総動員して……ああ、どうしよう。い、いまごろ、きっとおなかをすかせてるわ。あ、あ、服はもっていったの? も、もしかしたら奴隷商人に捕まったり……」
あわあわと動転するエイダ様を見て、数日前の自分の醜態を思い出す。人間、思いがけないことを聞かされると、どうしてもこうなってしまうものなのだろうか。
「落ち着いてください、エイダ様。セラフお嬢様がにこちらを出奔されて、すでに一週間近く経過しております。出先からお嬢様のお手紙も届いております。おそらくは無事であろうかと」
「て、手紙? 見せなさい!」
言われて、ひもで結ばれた分厚い書類を手渡す。両手にかかるその重みに、エイダ様は目をぱちくりしている。
「なによ、これ」
しばらくたったあと、目を細めてそう言うエイダ様の声は、普段どおりの怜悧なそれに戻っていた。。
「旅先よりいただいた、セラフお嬢様のお手紙です。内容は、ごらんいただければおわかりになるかと」
じっと手の中の何十枚もの紙の束を見つめ、ふう、と一つ彼女は溜息をついた。
「……あの子の事だから、きっと事細かな指示やらなんらや書きつらねてあるんでしょ。思いつく限りの予想にどう対応するかまで何十パターンも行動指針つくって。ちがう?」
「いえ、おっしゃる通りです」
紙束の最後のページをめくって、エイダ様はもう一度深く溜息をついた。
「最後の予測は三か月後。最悪でもそれだけたてば帰ってくるか、あるいは少なくとも連絡をよこすはずね」
「はい」
沈黙がおちる。
そっと目を伏せ、エイダ様はぽつりとつぶやいた。
「あの……莫迦。意味もわからず逃げ出して」